小林泰三/臓物大展覧会

臓物大展覧会 (角川ホラー文庫)

 彷徨い人が、うらぶれた町で見つけた「臓物大展覧会」という看板。興味本位で中に入ると、そこには数百もある肉らしき塊が…。彷徨い人が関係者らしき人物に訊いてみると、展示されている臓物は一つ一つ己の物語を持っているという。彷徨い人はこの怪しげな「臓物の物語」をきこうとするが…。
 グロテスクな序章を幕開けに、ホラー短編の名手が、恐怖と混沌の髄を、あらゆる部位から描いた、9つの物語。(カバー裏より)

  • 短編集、とのことなので一つ一つあらすじと感想をば

透明女

  • ある日今川義子に架かってきた一本の電話。それは高校時代の同級生、北条康子からもので、その内容はかつてクラスメイトであった小田信美が「学生時代にしてもらったこと」のお返しをしたいと言って同級生の住所を聞いて回っている、とのことだった。
  • のっけから容赦ないゴア描写で正直読むのを諦めようと思った
  • それでも先が気になって結局読んでしまう
  • 「会話が出来るのに恐ろしく人間味を感じない」といった刑事達のキャラが何というか気持ち悪かった

ホロ

  • 幽霊システム、それは愛する人を失った苦しみを和らげるため、生前の姿をし生前と同じ行動をとる幻覚を作り出すシステム。社会にこのシステムが広まることで生者と死者の区別は最早つかなくなっていた。
  • 生者と死者の区別をつけようとした挙げ句、驚愕の事実を知ってしまう男の物語

少女、あるいは自動人形

  • 僕はとある初老の紳士の館に招かれていた。何でも彼は完全な人間であるオートマータの作成に成功したらしいが…
  • 最後のどんでん返しが秀逸、見事に騙された

攫われて

  • 「わたしたち、誘拐されたの。小学校から帰る途中、公園で道草してたときに」僕が恵美と部屋で二人っきりの状況で、唐突に彼女はそんなことを言い出した。
  • 個人的にこの話が短編集内で一番唸らされた
    • オチを言ってしまうとこれから読む人に失礼なのでここでは述べないが
  • だがしかし誰かに語ってしまいたい!こんな面白い話があるのだと!

釣り人

  • 僕は会社の同僚であるエヌ氏に連れられて初めての釣りに出かけることになった。しばらく釣りを楽しんだ後、ふと気がつくと僕たちは帰途についていた。果たしてこの記憶の空白の間に何が起こったのだろうか!?
  • 話自体はよくあるものなのだが「手で枝をかき分けながら進むと、二人は釣り道具を片付け、帰路についた」の一文が異常な気持ち悪さ
    • この文を読んだだけで読者も「一体何が起こったのか!?」という気持ちにさせられる

SRP

  • 突如東京駅で巻き起こった怪現象。SRP―科学捜査研究隊は発足以来初めてとなる任務に向かう!
  • 同作家のΑΩに近い内容
  • 隊長のフジ・ユリコが中々に電波の上に役立たずで読んでいて少し不快
    • こういうアクティブなキャラがいないと話が動かないのはわかるんだが

十番星

  • 経津主事司はいつも甕星物也に悩まされていた。「温暖化が進めば水面が上がっておまえはおぼれ死ぬ」「オゾン層の穴が広がれば紫外線でおまえは癌になって死ぬ」そんなことを彼は毎日囁き続けるからだ。その物也がある日彼に言ってきた。「世紀の大発見をした」と。
  • 冥王星が9番惑星だったときに書き上げられた物らしく「現在惑星の数は八つとされています」の一文が

造られしもの

  • 彼はあらゆるロボットを憎んでいた。今や人間に出来てロボットに出来ないことなど何一つ存在しないからだ。人間の存在価値について悩み続けた彼が見つけた答えとは!?

悪魔の不在証明

  • 田舎の小村に移り住んできたとある男。彼は村に溶け込むために様々な努力をする。やっと村でもそれなりの地位に就いたそんな折、突然村にやってきた宗教家。彼は村人に一心に神の存在を説き続け徐々に村人達に受け入れられていく。当然以前から村にいた男としては自分を差し置いて皆に認められるのが面白くなく、宗教家に対し論戦を挑む。
  • 「ないことの証明」は「あることの証明」に比べ、一般に困難である場合が多い、という「悪魔の証明」に因んだ話